第95回アカデミー賞長編アニメ映画賞ノミネート、第80回ゴールデングローブ賞アニメ映画賞ノミネート、第50回アニー賞3部門受賞など名実ともに輝かしい評価を獲得している話題作『マルセル 靴をはいた小さな貝』。実写映像とストップモーションを組み合わせ、監督自身が本人役で出演するなど、フィクションでありながらもドキュメンタリーのように見せかけたモキュメンタリー手法で、“たった2.5センチの、靴をはいたおしゃべりな貝”マルセルの姿をコミカルに、エモーショナルに描く。
本作は、2010年から2014年にかけてYouTubeで順次公開され、累計5000万回再生を記録した短編作品を長編映画化したもの。短編作品は監督とマルセルの声を担当したジェニー・スレイトがふたりだけで作り上げ、時にアドリブ演技を加えて2日足らずで製作。長編映画化に際してはすべて実在のロケ地で、大まかな筋書きに基づくアドリブ演技を収録し、7年もの歳月をかけて完成させた。
監督を務めたディーン・フライシャー・キャンプは本作の高評価を受け、YouTubeから躍り出た新世代クリエイターとして、『リロ&スティッチ』実写リメイク版の監督にも抜擢された。今、映像作家として最注目のひとりである。
全米公開前から世界の映画祭で話題沸騰だった本作。『ミッドサマー』『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』などで知られる製作・配給会社A24が複数のハリウッドメジャーとの熾烈な競争の末に北米配給権を獲得したことも大きな話題に。2022年6月24日に全米6館限定で公開され、館アベレージ2.8万ドル(初動3日間)という高稼働率を記録した。
おしゃべりで好奇心旺盛な貝というマルセルのキャラクターや、祖母コニーとのハンドメイド感あふれる微笑ましい生活も魅力だが、テーマの現代性も本作の面白さのひとつ。マルセルは家族を探すためにSNSに動画をアップするが、瞬く間に全米の人気者になってしまい、野次馬が家にまで押し掛けたことで大切な祖母との日常が脅かされてしまう。周りが騒ぎ立てれば立てるほど、孤独感に苛まれるマルセル。
家族を探して広い世界に飛び出していくことと、日常を守ること。ふたつの狭間で悩むその姿は、SNS全盛の時代を生きる私たちにとって決して他人事ではなく、胸を揺さぶられる。
そのような現代的なテーマを含みつつ、たった2.5センチの貝が悩み、新しい出会いや別れを通して人生を切り開いていく様はある種普遍的な成長譚でもある。全米メディアが評するとおり、マルセルは私たちが忘れてしまいがちな喜びと悲しみにあふれたこの世界の美しさを、改めて教えてくれる。
映画監督、アーティスト、ニューヨークタイムズのベストセラー作家として活躍。女優のジェニー・スレイトと共に制作した短編『Marcel The Shell With Shoes On』(10~)が口コミで爆発的に人気になり、Filmmaker誌の「インディペンデント映画の新しい顔25人」に登場して以来、彼の作品はアメリカのほぼすべての主要メディアで紹介された。実験的ドキュメンタリー『FRAUD』(18)が広く議論と称賛を呼び、「見事なまでに挑発的」(Filmmaker)、「爽快」(Sight & Sound)「傑作」(Documentary Magazine/IDA)、「ドキュメンタリーの枠を超えた」(Variety)などと評された。コメディ・セントラル、HBO、アダルトスイムで放送されるテレビ番組や、ポップタルト、クレアラシル、モルテイーザーズ、ディズニー・インタラクティブ、アトラシアンなどのCMも手がける。待機作に、制作準備中の実写映画『Lilo&Stitch』がある。
スタンダップコメディアン、俳優、作家、クリエイター。コロンビア大学卒業。オリジナルコメディデビュー作『ジェニー・スレイトの舞台負け』(19)が、クリティクス・チョイス・アワード(放送映画批評家協会賞)のベストコメディ作品スペシャルにノミネートされ、映画『Obvious Child』(14)では、同賞の女優賞(コメディシリーズ)を受賞し絶賛を受ける。2009年からは人気番組「サタデー・ナイト・ライブ」のレギュラーとして1年間出演し、コメディエンヌとしての不動の地位を確立。俳優として『ヴェノム』(18)、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(23)などに出演。『ペット』(16)、『ズートピア』(16)、『怪盗グルーのミニオン大脱走』(17)などの声優としても知られる。短編『Marcel The Shell With Shoes On』(10~)では共同制作・声優を務め、作家としてニューヨークタイムズ誌の子供向け絵本のベストセラーとなった「Marcel The Shell With Shoes On」シリーズも手掛ける。アシェットブックグループから発売された最新作「Little Weirds」(19)は、ニューヨーカー誌に二度にわたり掲載され、個人のノンフィクション作品のコレクションとして絶賛された本作は、瞬く間にニューヨークタイムズのベストセラーとなった。待機作にルッソ兄弟監督作『The Electric State』(声の出演)など。
パリとローマで育つ。1979年、タヴィアーニ兄弟の映画『Il prato』で映画デビュー。『ホワイトナイツ/白夜』(86)、『ブルーベルベット』(87)、『今ひとたび』(89)、『ワイルド・アット・ハート』(91)、『永遠に美しく…』(92)、『フィアレス』(93)、『シェフとギャルソン、リストランテの夜』(96)、『Roger Dodger』(02)、『JOY』(16)、『インクレディブル・ファミリー』(18)など多数の作品に出演し、ロバート・ゼメキス、デヴィッド・O・ラッセル、デイヴィッド・リンチなど数々の名監督と仕事を共にする。著書「My Chickens and I」(18)はエイブラムス・ブックスから複数の言語で出版された。動物や野生動物の保護に強い関心を持っており、動物行動学と保全学の修士号を取得、ケベック大学モントリオール校の理学部から名誉博士号を授与される。受賞歴のある『グリーンポルノ』『セデュースミー』『マンマ』の短編シリーズは、動物行動学をコミカルかつ科学的な洞察で研究している。父・ロベルト・ロッセリーニの監督作品や、母・イングリッド・バーグマンが出演した作品など、家族の並々ならぬ映画の功績を守りたいという思いがある。2児の母で、ロングアイランドのベルポートに在住。ブルックヘブンでペコニック・ランド・トラストと共同で有機農場を経営している。
ロサンゼルスを拠点に活動する脚本家、映画監督、編集者。「Inside Amy Schumer」(13~)や「Broad City」(14~)で監督を務め、「物語」篇では、The Hollywood Reporterで「TVのエピソードベスト10のひとつ」として高い評価を得る。短編映画やドキュメンタリーは世界中の映画祭で上映され、中でもサンダンス映画祭でプレミア上映された『Andy and Zach』(10)は、IndieWireによって映画祭の「ベスト・オブ・ザ・ベスト」に命名された。編集者・プロデューサーとしてエミー賞2部門にノミネート、アメリカン・シネマ・エディターズ賞を受賞、テルライド映画祭、東京国際映画祭、カンヌ国際映画祭で自作が上映されている。ディーン・フライシャー・キャンプとは、編集者・脚本家として10年来の協力関係にあり、サンビームのコマーシャルも共同監督している。